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賃貸インタビュー

第十回 川崎市・上原國男さん

上原國男
川崎市で250年続く、農家のご当主、上原國男さんは9代目。
大家さんは本業と考えていらっしゃらない上原さんですが、地元に貢献する、正直な姿勢が昔ながらの大家さん像を彷彿とさせてくれます。

強い意志がなければ相続は乗り切れない

 現在70歳。12年間勤めた市議会議員を辞め、夫婦2人での農作業に戻った上原さんが大家さん業に乗り出したのは、市街化区域内での農業に厳しい目が向けられ、農業の収入だけでは難しくなってきた20年以上前のこと。
 「朝4時に起きて作業していると、近隣に新設された住宅街からうるさいと文句を言われるし、稲こきをすると藁が飛んでくると苦情。やりにくくなりました」。
 そこで、夫婦2人では耕しきれない遠隔地にマンション、アパート、一戸建てなどを次々建設。現在では80世帯ほどの貸家を所有する大家さんになっています。

 ほぼ同時期くらいに、周囲でも貸家建設が始まり「農家を継ぐ跡取りのいない家ではマンションを建てるのが一般的でしたね」。しかし、「自己資金で建てたならいざ知らず、借入れで建てたところは相続すると残らない。残るのは良くて底地。相続できるのは家屋敷だけというのが普通です」。

 今もそうですが、相続をすると財産が減るのは当時も同じ。上原さんがお父さんから昭和31年に相続をしたときには土地の値段は坪800円以下。相続した土地が2400坪といいますから、土地を全部売り払っても払えない状態です。それでも、上原さんが土地を売らずに頑張ったのは「先祖から伝わったものだから、売っちゃいけない。子孫に残さなくては」という強い思い。
「周囲を見ていると、農地改革で土地を手に入れた人の多くは土地にそれほどの思い入れがないんでしょう、さっさと売っちゃってますね」
 上原さんも次の相続では土地を売らざるを得ないだろうと思っていらっしゃるようですが、自分の相続で大変な思いをされただけに、手をこまねいているわけではありません。これからは経済の時代だと、ご子息には農業を継ぐことではなく、専門家として自立できる道を勧め、その結果、ご子息は現在、会計事務所の経営者。上原さんの貸家経営や経理に、プロとして参加。心強いビジネスパートナーとなっていらっしゃるとか。これは、先見の明というべきでしょう。

地元への無償の奉仕が「あの人なら」の信用を生む

 さて、その大家さん業。上原さんの弁によれば「そんなに儲かるもんじゃないなあ。大家の仕事はお金がかかるよ」。自分の家ではないと思うからか、貸家は傷みが早いと上原さん。そこで、不動産会社の言うとおりに修理をまめにやると、それにお金がかかってねえ……。
 最近では大家さんが敷金を原状回復の原資に充てることが批判されるようになっていますが、それ以前には上原さんのように、大家さんが修理などをしてくれるのが一般的でした。上原さんはその、昔と同じやり方で、大家さん業に取り組んでいらっしゃるわけです。

 修理にお金がかかるなら、そこで手を抜けば良さそうなものですが、そうもいかないと上原さん。「ずっとここにいるんだから、変なことはできないよ」。

 子どもたちの幼稚園、小学校などのPTA活動、日本一大きな町内会の会長、そして市議会議員など、地元との関係の深い上原さん。昨年娘さんの小学校が130周年を迎えたときには全校生徒に紅白の餅を配るなど、頼まれれば無償でも奉仕するという姿勢は、聞いているだけで潔く、頭が下がります。それが地元で知られないわけがありません。大家さん業で任せている不動産会社はもう20年以上の付き合いというのも、頷けるところです。

 この周辺では、地域内での住み替えが多いと聞きました。他の地域から引っ越してくるのではなく、地域内の賃貸物件で住み替える。そうしたときに、地元での評判は大事なポイントです。あそこの大家さんなら滅多なことはしない。空室も目立つ状況下で、「不動産会社任せさ」と笑っていられるのは、そうした、長年の信用あってのことなのだと思います。

 ちなみに、上原さんの無私の姿勢は他にも影響するのでしょう。仕事が休みだからと無給で草むしりしに来る人、地元の集まりがあるからと、ご飯を作りに来る人、あるいは梨をもぎに来る人など、上原さん宅にはいろんな人が集まるとか。私も一度、何かのお手伝いをさせていただきたいと思っています。

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